BOOK CLUB 海

千葉県発足の読書会です。現在はオンラインを中心に緩く~バラエティに~やっております。

【第3回】ブクラゴ読書会 私達がその涙を止めるにはレポート

三回目にして、少しだけやりたかったことに踏み込んだ、変わったテーマを設けての紹介型読書会を開催いたしました。申し込みがあるかかなり不安な中でしたが、お陰様で満席となり、紹介いただいた本もダイレクトに悲しみを取り上げたものではなく、非常にカラフルでした。また、話が四方八方に飛ぶ大盛り上がりの会となりました。みなさま本当に素敵な時間をありがとうございました!

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■2020年2月15日

参加者様: 7名(男性3名,女性4名)

テーマ:私達がその涙を止めるには(紹介型)

 

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本の紹介

「ゆめくい小人」作:エンデ/絵:アンネゲルト

エンデがストーリーを書いたという素敵な絵本をご紹介いただきました。

まどろみの国に住む人々は眠ることが仕事。そんな国のお姫様が寝付けなくなってしまい、悪夢を見るようになってしまいます。王様は姫を救うために旅にでるのですが、姫の不眠はなかなか治りません。しかし最後は夢を食べる小人に出会い、みんなで小人を呼び寄せる呪文を唱えーーーー。「きれいでやさしいゆめはたべずにのこしておいてくれ」というセリフが本の中で登場するそうなのですが、お互いへの優しさすら忘れそうなほどに押し込められている現代人には(睡眠も足りてない人が大いに違いない!)休むことを思い出させてくれそうな、素敵なダークメルヘンでした。

 

 

ドクトル・ジバゴ」ボリス・パステルナーク

ロシア革命という一大危機の中を生きる、愛、欲望に忠実に自由を愛して生きるロマンティックな人々の物語。激動の時代の中を生きる医師ジバゴはラーラという女性に恋し、最後は孤独のなかで詩を書き本書のなかにそれが掲載されている…というかなりユニークな構成。映画も有名だそうで、見たことのある方もいらっしゃいました。紹介者様は悩んだ若いころに小説に没頭し、兎に角長い小説を好んで読まれていたという思い出があるそうです。かの有名な戦争と平和も読まれたとか。ドストエフスキーは読めるけれど戦争と平和は…などなど、(笑)本好き同士で盛り上がりました。誠に残念ながら手軽には手に入らなくなってしまった本のようなので、神保町へGOですね。

 

荘子 古代中国の実存主義福永光司

紀元前四世紀の思想家荘子は今から2300年以上前に個人の主体性の重きを説いた思想家です。欲に果てはなく、価値観は己が定めるものーーーと絶対評価を極めた人間を「至人」と呼んだそうです。そうとなれば世俗の一切に惑わされないわけで、なるほど涙など止まってしまうというわけですね!2300年前にこのような思想が生まれていたことに驚きます。私達人間はそれからウン千年の間に何をやっていたのか…考えさせられます。ちなみに紹介者様は堀江貴文氏が至人なのではないかとおっしゃっており、興味深かったです。

 

「自分を休ませる練習」矢作直樹

食べるときは食べる。歩くときは歩く。今一瞬の目の前のことに集中することは実はとても難しい。疲れているときほどマインドフルに、ていねいに、と優しく対処法を教えてくれる本だそうです。普段食事をとるときに集中していることって滅多にありませんよね。歩くときも、大抵はぼけーっと別のことを考えてしまいます。きりきりと仕事の計画をしていたり、あまり楽しいことは考えていない人が多いかも知れません。本書は医師が書いた「頑張りすぎてしまう人」への本とのこと。疲れた時に読んで落ち着きたいですね。

 

 「脱出記 シベリアからインドまで歩いた男たち」スラヴォミール・ラウイッツ

スパイ容疑で逮捕されたポーランドの軍人がシベリアから脱獄して遂には異国へ逃れる、感動のハートフルストーリーです。徒歩で砂漠を超えたり、極寒、飢え、登山とありとあらゆる試練を乗り越えてインドへと逃れます。驚愕のノンフィクション…かと思いきや、この本を読んで何故涙が止まるのかというと…「実はこの本はフィクションだからです!」と素晴らしい落ちが待っていました。フィクションとして読んでも面白い大冒険劇ですね。

 

 

 「空が青いから白を選んだのです 奈良少年刑務所詩集」寮美千子

罪を犯した少年たちにとって、刑務所は社会の荒波から身を守る防波堤。ある作家さんんが情操教育の一環として少年たちに詩を書かせる授業を行います。言葉を拾ってもらえなかった少年たちが少しずつ言葉を受け止められる経験をしていく。紹介者様が実際に紹介してくれた詩は凄く優しく母を思う内容で、もしも誰かがもっと早く彼を見つけて受け止めていたら…と、そんな気持ちにならずにはいられませんでした。自分の思いや言葉を受け止め合える場所は大切だと、読書会に通じるね、という話が出たのも印象的でした。

 

 

~主催者の紹介本~

テヘランでロリータを読む」ナフィーシー

欧米で教育を受けた著者は大学教授。スカーフの着用を拒否したことから大学を追われることになります。ありとあらゆる翻訳文学が禁じられた革命のイランで、熱心な女性生徒たちだけを集めて彼女は秘密裏に読書会を開きます。テヘランでロリータを読むというタイトルがすべてを語っていると思うのですが、ナボコフのロリータという不良の文学を宗教的な制約が多く女性差別が横行する土地で読む。そういう魂と知性の反抗の話です。最後には主催者同様にアメリカへ脱出してしまう生徒たち。やはり西洋へ逃げ出すしかないのか、と悲しみを誘います。

 

「破戒」島崎藤村

部落出身の評判の良い教師である主人公は、出自を隠して日々を虞ながら生きています。誠実な恋もすれば、生徒に慕われる人生を真面目に生きている。それでも彼にとってすべての栄光は砂上の楼閣です。出自が暴かれれば途端に「村人」たちからの天誅が下ります。そして遂に彼は彼の成功に嫉妬した同僚に出自を暴かれアメリカへ…。

そもそも部落と政府の間にはそれなりに濃いつながりがあって、部落で暮らす人々にはそれぞれ大切な責務があったようですね。ましてや、選びようのなかった出自。ただそれだけを理由にした「天誅」とは、そもそも何様が下すものでしょうか。異分子を村八分にする人々にその権利は勿論、整合性があるとすら、私には決して思えません。日本人の闇を描いた佳作です。

 

 

 

それぞれのキーワードから話がぐんぐん広がっていく、とても楽しい会でした。涙をテーマにしてこのような出会い、語りが生まれるとは思わず、みなさまひとりひとりのキャラクター、個性が集まることで化学反応が起きる読書会の魅力を再認いたしました。 ご参加くださったみなさま、本当にありがとうございました!